先日、とあるSEO会社によってSEOを施されたウェブサイトをチェックする機会がありました。SEOの効果がなかなか現れないというので、細かく時間をかけて見てみたのですが、その結果、そのサイトでは、基本的に次の施策しか行われていなことが分かりました。

  1. トップページに対する被リンク
  2. タイトル、キーワード、ディスクリプション、見出し要素の最適化

よくある「SEOチューニング+リンク構築」であり、これはこれで基本的な事柄ですが、現在のSEOにおいて、これだけで成果を出すのは非常に難しいと思われます。

このことについてTwitterでぼそぼそとつぶやいていたところ、三澤氏(@creatry)より「差し支えなければブログで共有して下さい」という返信をいただいたので、ちょうど自分自身でも考えをまとめてみたいと思っていましたし、私なりにこのサイトがなぜ成果を出しにくいと考えているかということを以下に書いていきたいと思います。

ちなみに「差し支え」はもちろんありますので、サイトの名称や、細かなことは伏せてお話いたします。またSEOをやっておられる方々にとってはたいして目新しい内容でもないと思います。

なぜこれだけでは成果が出ないのか

先にあげた、2点だけでは成果が出にくいのは、大雑把に考えると次のようになります。

  1. トップページに対してのみの被リンクは、他のページを置き去りにして、そのページのみを突出させてしまうと同時に、ひとつのページに対して結びつけることの出来るキーワードが限定されてしまうため、多様なユーザーの検索行為に対応しきれないということ
  2. 安価な、あるいは無料の情報が書籍やウェブ上に存在することで、タイトルやメタタグレベルの最適化が当然のものになってしまった結果、多少SEOの知識やそれに対する意識を持った管理者ならば、専門家に依頼するまでもなく実行してしまい、それだけでは差異化に繋がりにくいこと

一方で、そのサイトのトップページが、導線の最適な起点となっているかというと、必ずしもそうではありませんでした。以下に、例をいくつか挙げてみます。

  1. 画像とFlashで過剰に装飾されたリンクにより、ボタンと画像の区別がつきにくくなっているということ
  2. リンクの数が非常に多いこと
  3. 試しに画像を取り除くと、いわゆるヘッダとフッタ以外がほぼ消えてしまうほど画像の割合が高いこと
  4. 画像リンクのマウスオーバー時の動作が多様で、必ずしもリンクとはみなしにくいこと
  5. テキストとアンカーテキストの色が等しく、アンダーラインはついているものの一目で区別しにくいこと
  6. 説明的な記述が少ないため、テキストのボリュームとは関係なくわずかな情報からユーザーが判断しなくてはいけなくなっていること
  7. 赤を使って、お問い合わせ先を目立たせているにもかかわらず、他の場所でも同じぐらいの彩度や明度の暖色系の配色をしているために、結果的にお問い合わせ先が埋もれてしまっていること

これらの事は、サイト・デザインの問題でもありますが、それ以前にトップページへ集客、そこからその他のページへユーザーを導かなくてはならない構造であることを考えると、ある意味で避けられない部分でもあるのでしょう。

さらに、このサイトに関しては「していないこと」も非常に多いように思われます。思われます、と書いたのは、私がこのサイトのサーバーまで見たわけではないので、あくまで、確認出来る事から推測したに過ぎないからです。それも次に書いてみます。

  • サイトマップXMLが設置されていないと思われること。
  • rel="canonical"、301リダイレクト、メタリフレッシュ、robots.txtなどを含むリンクの正規化がいかなる形でも試みられていないと思われること。
  • 一方で、リンクURLがかなり分散してしまっていること。
  • CSS3を使っていたり、非推奨のタグを使うなど仕様に沿っていないという問題のないレベルではなく、タグの閉じ忘れ等、明らかに問題を起こしそうなレベルでのHTMLやCSSのエラーがいくつも見れられたこと。

これ以外にも、SEOを意識せずとも、この辺りは最低限やっておくべきではないだろうかというレベルで、いくつか問題がありましたが、細かく書いていくときりがありませんし、そこは省略することにします。

SEOのための設計と運用というフェーズ

最近話題になった記事ですので、読まれた方も多いのではないかと思うのですが、F’s Garageの藤川氏の記事「SEOには、運用のSEOと設計のSEOの2つのフェーズがある。」で次のような記述があります。

SEO対策というのは、サイトを作った後の運用の話だと思っていたら大間違いで、SEOを意識したウェブサイトを設計すれば、立ち上がりが速くなるし、そもそもサイトのポテンシャルに影響してくる。何より何事にも変えられない大事な時間を失わないで済む。

今回、私が調査したサイトは明らかに、藤川氏のいわれるところの、「SEOをサイトを作った後の運用の話」と考える人の手によって施策されたものであるように思います。インデクサビリティ(Indexability)やクローラビリティ(crawlability)、サーバー、URL、コンテンツの設計が充実しているとはいえません。

では、運用レベルではどうでしょうか。私は直接運用に関わっているわけではありませんので、全貌を知ることはできていないとお断りした上でいいますと、そのサイトは、とても被リンクを受けやすい性質のサイトであると考えられるにも関わらず、トップページ以外にほとんど被リンクを受けていないことから、コンテンツの運用、マーケティング等で成功しているとはいえないようです。

それでも上位表示は可能

ではこのサイトは上位表示をすることができないのでしょうか。

実際のところ、運も必要ですが、このままでも上位表示を達成することは可能でしょう。この種のサイトを他にもいくつも見ており、上位表示を達成しているケースもたくさんあります。

事実、(可能ならばドメイン、サーバー、IPでそれぞれに分散された)被リンクを自然にであれ、購入によってであれ、一箇所(たいていトップページ)に集中しつつ、リンクを集めた先にペナルティにならない程度に特定のタグに対してキーワードや関連キーワードを配置することで、上位表示が達成される確率は高まります。もちろん、上手くいかないケースもたくさんありますけれど。

とはいえ、この方法ならば、費用はかかりますが、施策を行う方も簡単で、その方法に迷うことは特にありません。一人か二人のプログラマーを雇って、作業のいくつかを自動化させることで、同時に多くの企業に対し施策可能ですから人件費を節約することもできるでしょう。

ですから、こういう方法をとる方々がいることは決して不思議ではありませんし、サイトの運営者やクライアントが納得していれば問題ないのかも知れません。

ただ、私自身の意見としては、SEOはあくまでサイト全般を運営していく中での一戦術として位置づけられるべきですし、前後を考えずに施策されて、それ自体で完結しうるものではないと思います。パーソナライズ検索に関する記事でも触れましたが、ただ上位表示することだけが目標になってしまう場合、この視点が抜け落ちてしまいます。

見失いがちなのは、この施策が上位表示に貢献するのかという視点よりもさらに一歩進んだ部分が必要だということではないでしょうか。

例えば、ある種の相互リンクは上位表示に貢献しますし、相手が自分よりページランクの高いサイトであれば尚更のことです。ですが、そのサイトが相互リンクをすることによって、自サイトにアクセスしてきたユーザーを全て吸い上げてしまうのでは、自サイトは単なる相互リンク先の集客装置になりさがってしまいます。その相互リンクの結果、自サイトが上位表示されてしまっていたら、それは悲劇と言うより喜劇的な様相を呈してきます。

リスク管理が必要

このようなサイトで行われているSEOはまた、危険もつきまといます。

昨年2009年9月のYahoo!による一連のアップデートでは、とりわけ、非常に多くのサイトが、不可解な現象に悩まされました。これは決してその時に始まったものではなく、バグであるとか、フィルターであるとか、あるいはTDPという名称で知られているものであるため、SEOに興味のある方であればほぼ例外なくご存知だと思います。

このとき、被害を受けたサイトの中でそれなりに大きな割合を占めたのが、特定キーワードに対して上位表示を目的として被リンクを集めたサイトでした。つい数日前までビッグキーワードで上位表示を達成し、大量のアクセスを誇っていたサイトが一瞬にしてSERPsから姿を消し、その集客装置としての能力を奪われてしまったのです。

Googleも決して例外ではありません。Yahoo!に比べるとその数は少ないと思いますが、思わず考え込んでしまうような理由でSERPsからサイトが消えてしまうことがあるようです。

こうした現象を避けることは、現実的には不可能だと思います。とりあえず、今は大丈夫だと思っていても、検索エンジンの気まぐれやミスで、明日SERPsからサイトが姿を消す可能性を無くすことはできません。

例えば、この種のリスク関して、最近投稿された『ウェブ力学』の石川氏の記事はとても興味深いものだと思います。

大切なのは、こうした時に被害を軽減する手段を常日頃から講じておくことでしょう。例えば、その手段のひとつがロングテールといわれるものであり、ソーシャルメディアであり、サテライトサイトの作成です。様々な用語を並べることができますが、考えて置くべきことは、これらが全てリスクを分散させ、SERPsから自サイトが消えた時でも、その消失を補う役割を果たす可能性があるということです。

これはつまり、逆のことをいうこともできます。例えば、これからはTwitterだ、といってSEOを完全に放棄し、Twitterからの集客に全てをかけることはできません。はてなブックマークに強いからといって検索エンジンでのペナルティをそのままにしておくことも現実的ではないでしょう。ロングテールだけに頼ってしまうのも、総合的な集客率を下げてしまうかも知れません。

とはいえ、実際にはリソースのレベルでの制限がありますから、これら戦術を予算や時間、人数などを考えつつ、組み合わせていくことが必要になってくると思います。

今回私が調査をしたサイトに関しては、少なくとも私が見たところ、これらの視点が抜け落ちてしまっているため、例え、特定キーワードで上位表示をするという「偉業」を達成したとしても、その成功は不安定であり、また上述したようなサイト内部の設計の不徹底によりサイトそのものが持つ本来的な目的に対しても効果は限定されてしまうと思います。

おそらく高額であろうと考えるサイト構築に関わった複数の企業の名称を見るにつけ、もっと安価で効果的な対策ができただろうし、その余剰で、ソーシャルメディアやサテライトサイト構築に力を注ぐことができたのではないだろうかと考えてしまいます。

戦略の中にSEOを位置づける

SEOを専門にされている方々にとっては当たり前のことを書いているとは思いますが、結局のところ、重要なのは、提案や設計レベル、場合によってはそれより前の段階で、いかに戦略を考え、それを構成する戦術を描けるかということで、実際に運用面に入ってしまえば、どれだけ柔軟にそれが行えるかということだと思います。

特定キーワードに特化した上位表示のみを目的としたサイトが脆いと思うのは、以上のような理由で、戦略レベルで既に不安定な状況であるように思えるからであり、戦術が硬直的でリスクに対応しきれないだろうと考えるからなのです。

例え、今回例に挙げたサイトの内部が徹底的に最適化されていても、根本での安定性を欠いているという点で、成果に繋がらないか、繋がったとしてもそれは長期的なものにはならないのではないでしょうか。